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Meanwhile in Africa...

アフリカで今起こっていることを日本の皆様に正しくお伝えするため、海外大手ニュースサイトの記事を日本語で要約して発信します。

難民キャンプ閉鎖騒動のその後 -ダダーブとソマリア、それぞれの実情-

前回の記事で紹介したケニアのダダーブ難民キャンプ閉鎖騒動について、続報と補足情報を書き留めておこうと思います。

 

ケニア政府高官による閉鎖発表は5月6日金曜の夕刻でした。

その後、週明けから国連難民高等弁務官事務所UNHCR)、ケニアで活動する11のNGO、ソマリア政府、アメリカ国務長官などがケニア政府に再考を促す声明を発表し、5月18日には国連事務総長自らケニア大統領と電話会談を行う事態となりました。

5月23日、トルコで開催された世界人道サミットにおいて、ケニアを代表して出席した副大統領は、閉鎖の決定は覆されることはないとし、難民が帰還すべきソマリアへの復興支援を国際社会に呼びかけました。ただし、閉鎖に向けた具体的な期限や方策は未だ発表されていません。

 

ソマリアはいわゆる破綻国家で、北部ソマリランドは独立を宣言、中部プントランドは事実上の自治状態にあります。南部はソマリア軍と多国籍軍の支援を受けたソマリア政府が統制を拡大しようとしてはいますが、アル・シャバーブのテロ攻撃は絶えず、今年1月には駐留するケニア軍部隊が襲撃を受け、交戦でケニア兵200名が死亡したと言われています。ケニア政府はこの事件について情報公開を規制し、公式の死者数や襲撃の経緯は伏せられたままです。

 

ダダーブ難民キャンプに暮らす約35万人の難民のうち、95%がソマリア難民ですから、キャンプの閉鎖を実現するには、約33万人ほどのソマリア人が新たな居場所を見つけなくてはなりません。

 

難民がキャンプを去る方法は基本的に三通りです。すなわち、母国への帰還、第三国(主に欧米)への再定住、あるいはキャンプ所在国への統合です。

このうち再定住は、各国の受け入れ枠を合わせても年間数千といったところで、33万人のソマリア難民を受け入れられるものでは到底ありません。

多民族国家ケニアは、ソマリア国境寄りの地域にソマリ系の国民を抱えており、ソマリ系住民が増えて政治に影響することを嫌い、ソマリア難民の統合を拒んでいると言われます。ケニア政府は難民に移動の自由も就労の自由も与えていないので、多くの難民はキャンプ内で国連NGOの援助に頼って生きていくほかありません。

 

騒動の動向を追う中で多くの記事を読みましたが、新しい視点を提示してくれたのはエコノミスト誌のこの記事でした。

From here to eternity | The Economist

この記事の筆者は以下のように言います。

 ダダーブに来ればほどなく、飛び交う援助業界用語に気付く。NGO職員との会話や、支援団体の作るポスターやTシャツに散りばめられているだけでなく、若い難民たちもそうした用語を使うのだ。なぜならば、ダダーブでは、権利や抑圧にまつわる言葉を使って交渉することが、難民たちが目的を達成するのに一番手っ取り早い方法だからだ。世界一大きい難民の集積場所であるダダーブでは、息苦しいほどの官僚主義がはびこっている。

(中略)

難民の生活は、キャンプを維持しようとする援助機関とキャンプを閉鎖しようとするケニア政府という存在を通して外側から形作られている。

 

多くの援助団体が集まる難民キャンプでの支援は、援助団体間での調整や行政機関との調整なくしては行えないので、官僚的という指摘はもっともです。

元々人口まばらな土漠に突如形成された巨大な難民キャンプは、周辺住民や行政、地元政治家にとっては経済的ないし政治的な利益を及ぼしうる存在であり、援助事業をとりまく地元関係者の利権争いは熾烈です。

難民キャンプでは、純粋な善意のみによって難民に手を差し伸べることなどできないのです。

 

有名な人権系NGOヒューマンライツ・ウォッチも、ケニア政府のキャンプ閉鎖決定に反発しています。

NGOの下記記事から、ソマリアへの帰還がいかに危険なものであるかについての描写を抜粋してここに書き留めておきます。

Nothing to Go Back to – From Kenya’s Vast Refugee Camp | Human Rights Watch

 ソマリア国内には110万人の国内避難民がいるとされています。

首都モガディシオには、約35万人の国内避難民が暮らす間に合わせのキャンプがあります。ダダーブ難民キャンプからソマリアへ帰還した人々の中にも、結局この劣悪な避難民キャンプに入るしかなかった人が多くいます。ここでは、強制退去を命じられることもあるし、女性や女児には性暴力の重大な脅威があります。

帰還の道中そのものも危険に満ちています。

(中略)

15歳の弟とともにソマリアへ帰還した20歳の青年は、道中の検問所で連れ出され、アル・シャバーブの訓練所に送り込まれたといいます。幸運なことに彼らは逃亡に成功しましたが。

 

 110万人の国内避難民がいるソマリアが帰還に適した国だとは考えにくく、実際、ダダーブからソマリアに帰還したものの、ソマリアで安全に暮らすことが出来ずダダーブに戻って来る人もいると聞きます。

 

難民が帰還して暮らしていけるようにするためには、ソマリアのインフラ整備、医療や教育サービスの整備が求められますが、そうした復興事業を行うためにも、まずは治安の回復と、司法や警察機能を含む政府の統制の確保が必要です。

それがどのくらい困難なものであるかは、世界で泥沼化する「テロとの戦い」の現状を見れば自明のはずです。

 

世界がソマリアにいくら支援を注いだとしても、ケニア政府の求める性急なキャンプ閉鎖は、国際法に許容される形で実現できるものではありません。

筆者は今後も、ダダーブ難民キャンプでの支援に携わる者として、この騒動の動向を注視していきます。