世界難民の日に寄せて -難民とは何者か-
6月20日は世界難民の日です。
世界では、家を追われ難民・国内避難民となった人の数が2015年末までに6000万人に達したとされています。
そしてその数は今日も増え続けています。
私はイラク北部で、南スーダンで、そしてケニアにある世界最大の難民キャンプで、そうした人々を直接目にしてきました。
難民という言葉を聞いて皆さんは何を思い浮かべますか。
地中海を渡る満杯の船でしょうか。
ありあわせの布で作ったぼろぼろのテントでしょうか。
浜辺に打ち上げられた幼児の死体でしょうか。
たぶんどれも難民にまつわる真実です。
正確に言えば、難民にまつわる真実の一側面です。
難民キャンプは部外者が観光気分で気軽に訪れられる場所ではありません。
難民危機が叫ばれるようになったことで、難民キャンプがメディアで取り上げられることも増え、テレビ等でキャンプの様子を見られる機会は増えました。
でも報道は難民キャンプの限られた側面しか映し出していないでしょう。
各地の難民・避難民キャンプを訪れる中で、私は色々な現実を目にしました。
キャンプには経済があり、政治があり、生があり、死があり、あらゆる感情があります。
それはある特定の面で制約を受け、切り取られてはいるものの、何の変哲もない人間社会です。
そこで暮らす難民とは何者でしょうか。
閉鎖の危機に立たされている世界最大の難民キャンプ、ケニアのダダーブ難民キャンプでは、世界難民の日に合わせてイベントが開催されます。
今年のイベントのキャッチコピーに、その答えが凝縮されています。
キャッチコピーはこうです。
”Getting to know refugees - people like you and me”
(「難民とは、あなたや私と同じ人々」)
難民支援を担う国連機関UNHCRも、世界難民の日に先立ってキャンペーンを開始しました。
#WithRefugeesと銘打たれた署名活動には、多くの著名人が参加しています。
以下はこのキャンペーンに参加しているある作家の言葉です。
(引用元記事:http://www.unhcr.org/news/latest/2016/6/57625e2e4/stars-ask-you-to-stand-withrefugees.html)
“Refugees are mothers, fathers, sisters, brothers, children, with the same hopes and ambitions as us; except that a twist of fate has bound their lives to a global refugee crisis on an unprecedented scale.”
(「難民とは、何の変哲もない母であり、父であり、姉妹であり、兄弟であり、子である。私たち自身と全く同じ希望や野心を持った人々である。彼らが私たちと違うのは、運命のねじれによって、前代未聞の難民危機に取り込まれてしまったという一点においてのみである。」)
私は難民に関しては人より多くを見てきたし、多くを知っていると自負していますが、世界難民の日に私が声を大にして伝えたいのは、ただこの一点です。
難民とは、我々と何ら変わりない普通の地球市民なのです。
運悪く紛争や自然災害で故郷を追われただけの、何の変哲もない市民なのです。
ですから、本来、難民を支援するのに理由などいらないはずです。
難民とは可哀想な弱者ではなく、ただ一時的な(或いは、一時的であるはずの)不運によって、本来持っている権利を奪われている人々です。
その権利の回復を図るのは当然のことであり、そのまま放っておいていいはずがないのです。
「難民危機」と言うと、ある特殊な集団が遠い海の向こうで問題を作り出しているような誤った印象を受けますが、難民とは我々と同じ普通の人々であり、危機とはそうした人々の権利の剥奪という不正義に他ならないのです。
世界難民の日である今日この日、一人でも多くの人が「私たちと同じ存在」としての難民について、思いを巡らせてみてくれればと願います。